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気がつけば、俺は車を走らせあの町に向かっていた。
父方の里だということもあり、両親が離婚して以来足を運ぶことのなかった町。もちろん、あれから父にも会っておらず、今どうしているのかなんて知らない。数年前に祖父母が亡くなり、一人になった父は土地を二束三文で売って町を出た、という話は人づてに聞いていた。だから、家がどうなったかも分からないし、あの桜の樹もどうなっているか分からない。
もしかしたら、あの桜の樹はもう無くなっているかもしれない。そんな不安が頭をよぎり、アクセルを踏む足に力が入ってしまう。
記憶を頼りに道を走るが、俺は町の変わり具合に唖然としていた。あれから二十年近く経っているし、変化がない方がおかしいが、これはあまり好ましい変化ではなかった。当時から寂しさの漂う町ではあったが、手入れのされていない雑木林が増え、道を歩くのはお年寄りばかりで子どもや若い人の姿はない。今、目にしている町の姿は寂しいなんてものではなく、閑散とした静けさに包まれていた。
そんな寂しさに、ますます桜の樹や桜華の現状が気になってしまう。
案の定、父方の実家はすでに更地となり、目にはいる風景に懐かしい面影は薄れてしまっていた。じゃり道や田んぼには無造作に草が伸び、人間の生活空間だった場所はすっかり自然の一部になっていた。
「……ずいぶんと荒れたな」
ぽつりと呟き、変わってしまった景色を憂えるが、俺の意識はすぐに別のものに向かっていく。
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