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「……あぁ、思い出してくれたのだな……」 「うんっ。うん。思い出した、全部。桜華がくれた腕輪を見て……。俺、桜華のこと忘れててゴメン」  懐かしい桜色の紐の腕輪を見せると桜華は柔らかく微笑み、痩せ細った手を伸ばしてきた。微かに震える手のひらに腕輪を乗せて、そっと自分の手を重ねる。桜華の手は人の温もりが感じられず、弱々しい。俺は桜華の手を強く握りしめ何度も謝った。だけど、桜華は嬉しそうに微笑むだけだ。 「……そう自分を責めるな。……あの時も言ったが……、人は忘れる生き物だ。それに、私のことを忘れたのは……お前のせいではない」 「でも、俺、あんなに桜華のことが好きだったのに。あんなに簡単に忘れるなんて」 「私は所詮、妖だ。……人の世では存在も朧。縁が薄まれば、記憶も薄れる……」 「……そんな」  忘れることが当然で、仕方のないことだと桜華は言う。だけど、その声や表情は寂しそうで哀しそうだ。寂れていく町の姿を見つめる、あの時の姿と同じだ。  忘れる方は何気ないことかもしれない。だけど、忘れられる方は様々な思いを募らせ、思い出してくれるのをただ待つしかない。取り残されることで感じる孤独。桜華はそんな辛さを抱き、どれほど長い時を過ごしてきたのだろう。まだ二十数年しか生きていない俺には想像もつかない。
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