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「……でも、良かった。消えてしまう前にお前が思いだし、私のもとに来てくれて……」 「えっ? 消えるって……っ!?」  哀しい姿に気を取られ気づかなかった。桜華の身体は全体的に色が薄れ、背後にある桜の樹がうっすらと透けて見えている。気がつけば、握っていた手の感覚も曖昧になっている。 「な、なんで消えるんだ。桜華はこの桜の樹なんだろ。この樹は何度も生き返っているって、桜華言ってたよね」  この桜の樹が桜華だなんて、聞いていない。だけど、そう思った。子どもの頃から、桜華は人ではなくこの桜の樹に宿る精だと思っていた。 「そうだな、この樹は死にかけては何度も蘇る。……そして、私はこの樹に宿る者。だが……、私はもう消える」 「蘇るんだったら、消えないよなっ?」  蘇ると言いながら、消えると言う矛盾した発言に、願望混じりの感情が高ぶる。だけど桜華は、そんな感情を受け流すように静かに佇む。 「私は消える。……だが、この樹は蘇る」  俺の手に消えかけた手を重ね、桜華が妖艶しく微笑む。 「……これは絆。私とお前。そして、この樹とお前を繋ぐ絆だ……」  桜華の身体が、薄い色を纏った桜の花びらのように散っていく。 「桜華っ!」 「良かった、……お前が来てくれて。無事に代替わりが行えた……。この桜の樹は蘇る……」  桜華の身体から生まれた桜の花びらが俺にまとわりつき、聞こえてきた声。安心しきった穏やかな桜華の声は、春の風に吹かれるようにふわりと遠ざかっていった。
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