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 ◇ ◇ ◇  俺は小四まで、父方の祖父母が暮らす田舎に住んでいた。見渡す限り山と田んぼに囲まれた、のどかさを絵に描いたような田舎だった。本当に何もなく印象に残る場所なんてなかった。たった一ヶ所を除いて……。  それは家の裏手にあった大きな桜の樹。  都会的な遊べる場所は皆無だったが、田舎ゆえに自然の中で遊べる場所は腐るほどあった。超が付くほど健康優良児だった俺は、友だちを引き連れて毎日のように自然の中を駆け回っていた。しかし、広がる自然全てが遊び場でありながら、なぜかその桜の樹にだけは友だちを連れていくことはなかった。  不思議とその場所だけは、自分だけのものにしておきたかったからだ。  子どものくせに抱いてしまった妙な独占欲。理由はその桜の樹自体の壮大さと、そこで出会った人物の神秘性がもたらしたものかもしれない。  その桜の樹はかなり古い樹らしく、幹も太く枝振りも立派だった。春の時期になれば、空が桜色に染まるのではと感じられるほどに花が咲き乱れる。  子どもの拙い感性ながら、圧倒的な迫力に感化された俺は、桜の時期になると毎日のようにその桜の樹に足を運んでいた。    そんなある日、俺はその人と会ったんだ。
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