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 桜華は柔らかく微笑みながら、この桜の樹や町の話をしてくれた。  この樹が何百年も前から、この地を見守っていること。枯れかけては何度も生き返り、花を咲かせていること。そして、俺の知らない古い出来事の話……。桜華はそれらを、まるで自分の目で見たもののように語っていた。  彼があんなにも古いことを知っているのが、とても不思議だった。大人だといっても、子どもの目から見た大人の姿。実際は両親よりも若いかもしれない。若くても歴史を学べば、物語のように語れるだけの知識を得ることはできるだろう。けど、桜華の語る話は、資料として残るような話ばかりではなかった。  でも、そんな疑問も些細なもので、俺はすぐに桜華の話に夢中になっていた。なんというか、桜華の語り口は祖母や祖父のような年寄りじみたもので、語る内容に妙な真実味を与えていたからかもしれない。  そんな桜華だったが、時おり遠くを見つめ寂しそうな顔をすることもあった。 「おうか、さびしいの?」  そう尋ねると、桜華は薄い桜色の髪を揺らし、自分の顔を隠そうとした。 「ああ……。年を追うごとに寂しさは募ってゆく」  消え入りそうな声で答えた。その時、髪の隙間から覗く彼の頬に、キラリと光るものが流れたような気がした。  祖父母の家は小さな山の中腹にあり、裏手の桜の樹がある場所からも町の様子がよく見渡せていた。  一応は町ではあるが、結局は田舎。人は何もない田舎を嫌い、都会に出ていく。人がいなくなれば、町は寂れていく。大人になった今になれば、桜華が何を憂いていたのか分かる。しかし、子どもだった当時は漠然としか理由が分からずにいた。
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