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 俺は桜華に寂しい思いをしてほしくなかった。桜華の笑顔でいてもらいたくて、桜の時期には毎日桜華のもとに通うようになっていた。  だけど、別れの時は突然訪れてしまう。  桜華と出会って三度目の春。その年の桜が、ようやく咲き始めた頃。俺は両親の離婚という大きな出来事で、この町を出ていくことになった。  それを両親の口から聞かされた日、もう薄暗くなり始めた時間にも関わらず、俺はなぜか裏の桜の樹……桜華のもとに走っていた。  まだ花の咲かない桜の樹の下に佇んでいた桜華の姿。けど、冷たい夜風に靡く桜色の着物と長い髪が、満開の桜のようだった。 「どうした? こんな時間に」  桜華は驚いたように言う。俺の方は桜華の顔を見たとたん、訳の分からない寂しさが込み上げ涙が出てきた。突然、声を張り上げ泣く俺に、桜華はさらに驚いてしまう。 「何を泣いているのだ?」  膝を折り、視線の高さを子どもの俺に合わせた桜華が、白い手で優しく頭を撫でてくれた。 「……ぐすっ。……ぼく、遠くに引っこすんだ……。もう……おうかに会えなくなっちゃう」  嗚咽まじりに言う俺に、桜華はまた優しく頭を撫でてくれた。 「そうか……、お前も遠くに行ってしまうのか」  時おり見せる寂しい顔を俺に向け、桜華は静かに言う。  俺は桜華の側で、しばらく泣きじゃくっていた。その間、桜華はずっと俺の側に寄り添ってくれていた。
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