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 ◇ ◇ ◇ 「本当、綺麗に忘れていたな」  町を出てから二十年近く経っていた。桜華の言った通り、俺は桜華や桜の樹の存在を忘れていた。そして、言葉通り桜色の腕輪を見て思い出した。 「自然と思い出すか」  子どもの頃には腕につけても余裕があった紐の腕輪だが、今では腕を通すどころか手の甲すら通らない。それもそうだな、俺も成長して大人の男になった。学生生活を終え、社会人にもなった。そして縁があり結婚して、もうすぐパパになる。  それほど長い時間忘れていた記憶を、本当にあっさりと鮮明に思い出した。 「絆かぁ」  人差し指に引っ掛けたままの紐の腕輪を眺め、桜華が告げた言葉を呟く。  桜華はこれが自分と俺を繋げる絆だと言っていた。だったら、今度生まれてくる子どもに、これを送れば俺と子どもを繋ぐ絆にもなるな……、なんて考えてみる。だけど、そう思う反面、不思議とこれを他人に渡すのが嫌な感じもしてしまう。  何気なく、窓から射し込んでくる光に懐かしい紐の腕輪をかざしてみた。暖かな春の陽射しに照らされ、桜色は一層輝きを増す。そして、その輝きの先に満開の桜が映る。 「……桜華、今も元気でいるのかな」  急に桜華に会いたくなった。空を覆いつくすほどの満開の桜を見上げたくなった。  俺はおもむろに立ち上がると、今までしていた掃除を放り出し部屋を出ていった。
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