0人が本棚に入れています
本棚に追加
もうすぐお花見の季節だね、なんて話題が出てきた頃、カナコの気分は、一気に重くなる。
就職して3年目、会社の恒例行事である花見の幹事が、とうとう回ってきたのだった。
同期のサチエも一緒なのだけど、あまり協力的ではない。
だけど、「二人で幹事なんだから、もうちょっと、協力してくれない?」とは言えないカナコだ。
今日も何とか仕事を終え、会社を出たカナコは空を見上げた。
(わあ、まだこんなに明るい。ついこの間まで、会社を出たら真っ暗になっていたのに)
ふとそんなことに気付くと、カナコは嬉しくなる。
まだ風は冷たいけど、春は確実に近づいているのだ。
カナコだって、花見は好きだ。
けどそれは、家族や親しい人と、青空の下でのんびり桜を眺める時間のこと。
決して、真っ暗な中、ライトアップされた桜の下で、苦手な上司や同僚たちとどんちゃん騒ぎをすることではない。
地下鉄で30分、地上に出るともう辺りは暗くなっていた。
カナコの家まではあと徒歩10分。
途中に小さな公園がある。
桜の木と、ブランコと、ベンチが一つ。
カナコはいつも、その間をすり抜けて帰る。
小さい頃から見てきたその桜の木が、カナコは好きだった。
今年はまだ、蕾もつけていないが、かわいい花を咲かせてくれるのが今から楽しみだ。
最初のコメントを投稿しよう!