指先に、乗せる

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もうすぐお花見の季節だね、なんて話題が出てきた頃、カナコの気分は、一気に重くなる。 就職して3年目、会社の恒例行事である花見の幹事が、とうとう回ってきたのだった。 同期のサチエも一緒なのだけど、あまり協力的ではない。 だけど、「二人で幹事なんだから、もうちょっと、協力してくれない?」とは言えないカナコだ。 今日も何とか仕事を終え、会社を出たカナコは空を見上げた。 (わあ、まだこんなに明るい。ついこの間まで、会社を出たら真っ暗になっていたのに) ふとそんなことに気付くと、カナコは嬉しくなる。 まだ風は冷たいけど、春は確実に近づいているのだ。 カナコだって、花見は好きだ。 けどそれは、家族や親しい人と、青空の下でのんびり桜を眺める時間のこと。 決して、真っ暗な中、ライトアップされた桜の下で、苦手な上司や同僚たちとどんちゃん騒ぎをすることではない。 地下鉄で30分、地上に出るともう辺りは暗くなっていた。 カナコの家まではあと徒歩10分。 途中に小さな公園がある。 桜の木と、ブランコと、ベンチが一つ。 カナコはいつも、その間をすり抜けて帰る。 小さい頃から見てきたその桜の木が、カナコは好きだった。 今年はまだ、蕾もつけていないが、かわいい花を咲かせてくれるのが今から楽しみだ。
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