指先に、乗せる

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日中はだんだん暖かい日が増えてきたけれど、夜はやっぱり寒い。 同期のサチエは、颯爽と春物のコートを着て帰って行ったが、カナコはまだ冬物の分厚いコートが手放せない。 毎年、会社の花見会場になっている公園の桜は、今ようやく三分咲きらしい。 この調子なら、花見当日はほぼ満開に近い状態で迎えられるのではないだろうか。 帰り道の公園の桜は、やっといくつかの蕾が膨らみ始めていた。 週の真ん中、水曜日。いよいよ、花見は明後日に迫っていた。 飲み物やオードブル、クーラーボックスとシート……抜かりなく、準備は進めてきたはずだ。 本当は今日も、カナコは当日のスケジュールについて少し確認したいことがあったのだけど、「ノー残業デーだし、明日でよくない? てゆーか、凄い張り切ってるね」と、サチエは笑ってあっという間に帰ってしまった。 いつもの帰り道、公園の桜の下には4、5人のサラリーマンらしき人たちがいた。 普段は静かな場所だから尚更、男たちの大きな笑い声が響いている。 桜はまだほとんど咲いていなかったけど、 彼らにとって、それはあまり重要なことではないのだろう。 カナコはちょっと考えて、踵を返した。
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