指先に、乗せる

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「ごめんください、誰かいますか……?」 カウンターの奥にドアを見つけて、カナコはそこに向かって声をかける。 「すみませーん……」 もう一度声をかけて耳をすますと、ドアの向こうから足音が近づいてきた。 「申し訳ありません、大変お待たせいたしました」 「は……!?」 低く落ち着いた声と共に入ってきた姿に、カナコは驚きのあまり息が止まるかと思った。 「いらっしゃいませ、ようこそ"ネイルサロンさくら"へ。 ご予約の小坂カナコ様ですね。 久しぶりのお客様で、準備に手間取ってしまって……、さあ、どうぞこちらへ」 「ちょ、ちょっと、すみません、ちょっとストップ!」 あまりにいろんな事が一気に起こりすぎて、カナコの頭の中はパニックだ。 「あの、まず、予約してませんし、名前も何で知ってるのか分からないし、あの、あの……、ライオンですよね!?」 不思議なことはいっぱいあるが、何よりも"彼"の姿。 ぴかぴかの黒い革靴、シワ一つない黒いズボン、手触りの良さそうな生地の黒いベスト、パリッと糊のきいた真っ白いシャツ、光沢のある黒いネクタイ。 その上には、イケメンの顔などではなく、ライオンの頭が乗っかっていた。
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