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同じ文学部に属する美奈子なら、自分の小説を執筆したい欲求を理解してくれるだろうという安心感があった。それに、美奈子は人を馬鹿にしたりしない。
タイムマシンに乗って、死んだヒロインを助けに行く。
それは、陳腐な展開に思えるかもしれない。しかし、主人公の元々の目的より少しそれた用途に使うという点においては可と言える。主人公は、未来より過去に興味があった。
たとえば、少し技術が足りなくて、過去にしか行けないタイムマシンができたとする。それでも主人公の目的は達成されるから、まあいいかとなっても不思議ではない。次は未来にも行けるタイムマシンを作ろうと、今後に含みを持たせる終わり方もできる。
ああ、何となくだけど、何かが見えてきた気がする。広路は、美奈子がいることは気になったが、筆を執らずにはいられなかった。原稿用紙に一粒、ボールペンのインクが落ちる。
しかし、いざとなったら書けなかった。一粒のインクから、物語は広がらない。美奈子は不思議そうに広路に聞いた。
「私、邪魔?」
ハッとして顔を上げると、美奈子は心配そうに広路を見つめていた。ああ、こんな顔させたいんじゃないのに。広路は、慌てて
「だ、大丈夫だよっ」
と言ったが、その声は裏返っていた。美奈子の不安をさらに掻き立てたようだ。
「ごめん、やっぱ邪魔だよね」
ガタッと席を立つ美奈子。その直後に、「違うって!」と広路も席を立った。出入口に向かう美奈子を追いかけて、その腕を掴んだ。
「まって!!」
その時、ふわりと身体が宙に浮くような、おかしな感覚を覚えた。エレベーターに乗っているときのような、ゆらりと視界が揺れる感覚。
――あれ?
――こんなこと、前もあった?
広路がその感覚に気を取られている間に、美奈子の腕はするりと広路の手から抜けていった。それでも広路は、我に返ることができずに、その場に立ち尽くしていた。
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