第1章

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*****  ぐしゃりと原稿用紙を丸める。これで五枚目。  少年は、自宅近くの家電製品が不法投棄された河原から、ドラム式の洗濯機を見つける。少年が聞いた話だと、ドラム式の洗濯機でタイムマシンはできるらしい。  少年は泣きながら、洗濯機に赤、黄、緑の線を繋いだ。線の先はゲーム機を改造した機器に繋がっている。この電源ボタンを押すと、洗濯機が回りだすはずだった。  しかし、洗濯機はビクともしない。配線の仕方が間違っているのか?線を繋ぎ直して、再びもう一度電源ボタンを押した。一瞬、モーターの回る音がして、再び止まった。  少年は、なぜ泣いていた?ヒロインが死ぬ展開は嫌だ。  ススッと何かが擦れる音がして、広路は顔を上げた。静かに席を立って、その方向へ歩いていった。 「土岐野……」 美奈子はビクンと肩を震わせた。 「広路くん……」 美奈子はサッと本を棚に戻して、「また邪魔しちゃったね」と呟いた。美奈子が見ていないにも関わらず、広路は首を横に振った。 「邪魔だなんて」 美奈子は広路の脇を抜けていく。その時、ピタッという音がした。見ると、広路の足元に、100円ショップで売っているビニール製の表紙のカードケースが落ちている。そのカードケースは、ちょうど学生証を挟んだところを開いていた。  T大学文学部日本文学科 4回生 土岐野美奈子  それを拾ってみる。見間違いかと思った。しかし、確かに見間違いではないことを確認する。4回生。美奈子は、広路と同級生のはずだ。 美奈子は、留年しているのか?いや、それにしても3回生と表記されるはずだ。4回生だが、3回生のゼミに所属しているのか?いや、出世年は広路と同じ。浪人も留年もせずにいれば同じ学年になる年だし、下の学年になることはあっても上の学年になることはないだろう。
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