偽の王と花嫁

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 その言葉の直後、辺り一面を激しい光が覆い尽くした。  光の発生源はアリーで、その光によってフランはようやくアリーを抱きとめていた存在を明らかにできた。  大きく口を開きアリーの首元に噛みつこうとしている男の口元には、牙のように鋭利に尖っている歯が二本あった。  そのようなもので首筋に噛みつく存在……、それは本の中や映画の中でしか見たことが無い存在。 (吸血鬼だっ……!)  このままでは他の被害者のようにアリーも干からびるまで血を吸われてしまうと危惧したフランは、どうにか蛮行を止めようと慌てて二人に声をかけた。 「お、おい!やめろよっ!」  声がすくんでしまったかもしれない、二人に近づく足はガクガク震えている。  アリーを中心に発生していた光はだんだん弱くなっていき、光が消える頃には感情の読めない表情でフランを見つめる吸血鬼と思われる男と、フランの登場に驚きを隠せないアリーの姿がそこにはあった。  二人の顔がそこまで識別できるくらいの位置までフランは近づくと、様子を伺いながらなお距離を詰める。  突然の乱入者にも驚いた様子はなく、アリーを抱きとめる吸血鬼はアリーの首筋のみを凝視しフランに一切の注意を払わない。 「牙が……」 「だから言っただろう。あなたには無理だと」 「まさか……お前、花嫁かっ?!」  アリーに牙を刺そうとしていた吸血鬼は憎らしげにアリーを睨み付けると、彼をフランの方へ突き飛ばす。  その時になってようやくフランの存在に気付いたのか、アリーに寄り添うフランの事も憎らしげに睨み付ける。 「本来吸血行為は人間に見られずに行うのが鉄則だ。見て構わないのは同胞と花嫁のみ。吸血できないどころか人間風情にも見られるとは……。っ、必ず、必ずこの私がお前たちを始末してやる!」  そう言い残すと吸血鬼の男は風景と同化するようにだんだんとその姿を透明にして姿を消し、その場を後にした。  まるでそこには初めから何もいなかったようにその場所にはアリーとフランしか残っていなかった。 「……アリーさん」 「……フランくん、駄目だよ。子供が遅い時間に一人歩きしてちゃ……」  アリーは困ったように笑いながら、フランに帰ろうかと優しく声をかけた。  目の前で起こった光景が理解できないままフランは頷き、先を歩くアリーの後に従い自宅の宿屋へ戻ったのだった。
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