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私は氷と氷の隙間にまた氷を押し込んだ。
水位がきゅっと上がる。
「ケンちゃんの番だよ」
ケンちゃんはふーと息を吐いて、髪を吹き上げる。
ケンちゃんの高い鼻の上にある目は、すっかり姿を現してから、又半分姿を隠す。
「……カスミとマサに嘘をついた。二人に互いが別れたがってるって言って、別れさせたの、俺」
私はその事実を知っていた。
マサくんと再び友達として話せるようになった、ずっと前に、聞いて知っていた。
でも、私たちはよりを戻すようなことはしなかった。
小さな嘘で壊れてしまうような関係だった。
まだ幼い恋だった。
恋とは呼べないような、淡い想いだったと私は思っている。
「……酷い。泣いたんだよ? いっぱい、泣いたんだから」
口ではそう言うけれど、そんなにケンちゃんを責める気持ちはない。
褒められた行為ではないけれど、今なら理由も分かるし、もう時効だと思うから。
ケンちゃんはいつもの元気をしまい込んで、それでも氷をグラスに押し込む。
ロックアイスの山が勝手にがしゃっと鳴って、形を崩す。
暑さで悲鳴を上げる様に。
「私の番ね。実はマサくんに聞いたんだけどね……。ケンちゃんってハーフなんでしょ? ずっと気がついてなかった」
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