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私は言われた通り、アイスピックとグラスを一個、見つけたチョコレート菓子をトレーに載せて、階段を上がった。 階段の半ば、踊り場で灯油缶を持ったケンちゃんとすれ違う。 「入れて来る」 「うん」 またトントントンと、降りていく音を聞く。 がちゃっと玄関が開く音がしたら「あら、ケンちゃんいらっしゃい」と、私のママの声がした。 「あ、こんにちは」 「あら、灯油入れるの? 一番右から使ってくれる?」 「はい」 ママは灯油を入れるという家族のような行為をケンちゃんがすることに驚くことはないし、ケンちゃんもどこに灯油が置いてあるかをきちんと知っていて、まるで家族の一員のように、勝手知ったる家を歩き回る。 短い会話を交わして二人が入れ違いになっていく様子を、階段の最上部で私は耳を傾けていた。 ケンちゃんとの関係は嫌いじゃない。 心地いいし、気を使わないし、嫌いじゃない。 駅でなんか待ち合せると、ケンちゃんは私の知ってるケンちゃんじゃないみたいで、そわそわするけど、家に居る時はやっぱり幼馴染のケンちゃんだ。 昔よりずっと男らしくなって、なんだかやたら顔が整った男の人になったなんて、家では気にならないから。
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