911人が本棚に入れています
本棚に追加
ボクは森川雛乃が好きだ。
ボクの仲間内ではハッキリ言って彼女の評判はさっぱりだった。
すっごいマジメで、男には『近寄らないで』ってオーラ出してるし。
銀のフレームのメガネをかけてて、それが何だか今ひとつに見えるらしいし。
雰囲気は地味過ぎて、沈むどころか逆に浮いちゃってる感じみたいだったし。
とにかくそんな外野の評判とは全く裏腹に、ボクは森川さんのことが気に入ってた。
あのマジメそうな(実際真面目なんだけど)風貌も、すっごく新鮮な感じで良かった。
ボクにとっての森川さんは全然地味なんかじゃなかった。
華奢な体に小さい顔の彼女。メガネの下の表情を、よく見てみたい。
いつも何を考えてるんだろう。友達とは何を話してるんだろう。
どんな声でおしゃべりするのかとか、そんな他愛も無い想像ばっかりしてた。
あんまり男子の前では見せない笑顔を時折見かけちゃったりすると、朝の星座占いなんかよりもずっと確信を持ってラッキーデーだななんて思ったりする。
もっと近付きたい。
理屈じゃないんだ。
ボクは森川さんの事が気になって仕方がなかった。
だけどボクと森川さんとの接点は、今のところ全然ない。
「おはよう、森川さん」
ボクは森川さんを見かけると、ちゃんと挨拶するようにしてる。
本当はもっと話したいんだけど、とりあえずの一歩だ。
まず足固めだ。
同じクラスの特権を生かすんだ。
「…おはよう…」
あんまりボクの目を見ないまま、森川さんは静かに挨拶を返す。
彼女はマジメだから、ほとんど話をした事がないボクに対しても、きちんと無視せずクラスメートとしての義理を果たしてくれる。
ボクは2年E組に入る森川さんの後ろ姿を見送った。
いつも後ろでまとめてる髪は真っ黒で、多分今までに一度も染めていないんだろうなと思う。
あの髪を解いて、あのメガネを外して…でもってあの制服までも…とか、朝から妄想が爆裂しそうになるのを抑えつつ、ボクも同じ教室へ入った。
最初のコメントを投稿しよう!