序章 英雄に焦がれる者

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彼の言うリゼッタとは、この国を救ったと言い伝えられている若き少女の竜喚使、彼女の召喚術は計り知れない質量を持っていた。その為に英雄として活躍をして欲しいと命じられた通称リゼは、グランドフォレストへと向かった。 呼名は大地の森、それこそがリゼッタのある意味での武勇伝になるのだが、其れはまた別の話。そんな此の森には古くから竜の骨が祠に祀られている、何でもこれは英雄少女様の使わしていた竜らしいが。過去に、その化け物は暴走した為に彼女自らの手により討伐されてしまう。 樹木の聖剣(ユグドラシルブレイド)幼いながらにも、少女が所持していた武器は一刀の巨大な大剣だった。其れは幻の古竜、名も無き化け物となったその魔物を斬るだけに創られた、無情の剣でもある。 「父さん、リゼッタ様は、どうしてお姿を消されたのですか?」 『竜喚使の心得を、彼女は悟ったのだろうな。本当に偉大な英雄だったよ……』 「心得。それは、何ですか?」 『リゼッタ、否。英雄の少女は俺の前で突然竜を召喚した、彼女は元教え子なんだ。だから、お前達にも立派になって欲しかった。竜喚使として恥じぬようにな』 「英雄かー、俺等にも成れる気がしてきたぜ。頑張ろうな、クライト坊っちゃん!」 明るく笑顔を浮かべたまま、青年がクライトにそう言って肩を抱く。咄嗟に彼は狼狽してか見事な回し蹴りを一発お見舞いし、素早く身を翻して銀の銃を腰に着けたケースにしまう。その動作に無駄は無く、講師は苦笑いした。長年森で育った彼は、容易くもライバルを欺く。 何だが実力者の差を見せ付けられたみたいで、ヴァニルは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。軈て、感服したとばかりに青年はクライトの髪をわしわしっと撫でて行くと、何事も無かった様に深層部の森から抜け出してしまう。 「達者でな、坊っちゃん。俺にはどうにも性に合わないみたいだし、代わりに頑張れよ!」 「ヴァニル、君も少し修業を積まなければ、立派な竜喚使になるのでしょう?」 「いや、まじ無理だわ。俺は魔術を磨くより、腕力でも鍛えてくる。そうしたら坊っちゃんが旅立つ時に馬車の荷物を運べるだろ?」 確かに、彼には力仕事の方が合っているのかも知れない。実際筋肉質だし魔力は大木を浮かすのでは無く、自らの力だけで動かしていた、あの姿から見てもヴァニルには運搬をする仕事が似合う気がする。
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