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その背中を見届けて、青年は自身の働く店内に戻る。閉められたドアで揺れるベルは十数秒前と同じ音を奏で、そして沈黙する。店内に並ぶのは、シンプルな日用品をはじめ、木彫りの玩具、食卓を彩る銀器、庭先に置かれる大きな動物の置物。壁に備え付けられた洒落たランプもまた商品であり、壁から伸びる支柱の部分に掛かった「見本品割引!本品限り」との札を、部屋と共に優しく照らしている。
客の姿はなく、彼は商品の陳列を整えつつ店内を一周する。絵本の順番を直し、ハンカチをたたみ直し、商品の並ぶ数を確認する。その内のひとつ、布や革が並んだ材料コーナーとでも呼ぶべき領域に、空になった籠と、残り少ない籠を見つけた。いくつかの結晶を在庫から補充する必要がある。エプロンの腹のポケットから紙束を、胸ポケットから簡素なペンを取り出す。そうしてリストアップを始めようとしたところで、店の奥から物音がして手が止まる。カウンター裏にかけられたカーテンを潜って現れた木箱を抱えた灰色の髪の青年へ、筆記具を仕舞って声をかける。
「ちょうどよかった。トリズ、それ結晶?」
「おう。今持っていく」
「気を付けてね。壊れやすいんだから」
トリズと呼ばれた青年は、そう言われてぎくりと固まる。そして、バックヤードを歩いていた時よりも慎重に、広くなくとも狭くもない店内を歩む。カウンターを出て、防寒具の横を抜け、女性向けコーナーと順に合間を縫って、そして自分より小柄な青年の前に木箱を置いた。トリズとしては極力丁寧にしたつもりだったが、それでも少し木箱の中から軽く透明な音がした。
「これで合ってるよな?セニー店長」
「合ってる合ってる。だいぶわかってきたじゃない」
「そりゃどうも」
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