1:探し者

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 セニーは箱を開け、中身を検める。赤、青、黄、緑。いずれも磨かれ、透き通った八面体が板に仕切られ木箱の中に詰められており、セニーの顔に自分の色を足して映している。  トリズが大きく息をついたのは、箱を間違えなかったことと破損していなかったことへの安心。その芝居がかった仕草には見向きもせず、セニーは箱の中身を手に取る。  セニーとトリズは、それぞれ赤と青の籠を手に取って屈み、作業を開始した。指で摘まめる程度の小さな結晶たちの中に、セニーは手を直接潜らせ、一気に掬う。その向かいで、トリズが青の結晶を箱から数個ずつ籠に補充する。青は籠の半分程度しか減っていないので、セニーほど大雑把なことはできない。仮にトリズが赤を担当したとしても、傷をつけない力加減で一気に掬いとることはできない。 「壊れやすいんじゃなかったのか」 「これね、コツがあるの」 「なるほど……?」  セニーは、なんてことないような口ぶりで回答をする。トリズも、そういうものかと納得し、それ以上聞こうとせず、黙々と補充する。セニーはこの雑貨屋で生まれ、育ってきた。そうして培われた勘や技術よりも覚えるべきことは多い、と店員歴一ヶ月のトリズは考えていた。 「それにしても、赤ばっかり売れたんだな」  商品の売れ筋もまた、新人店員の覚えるべきこと。そう意識しての質問ではなかったが、セニーの琴線には触れたようだ。手を止めずに答えるが、その調子は明るい。 「ま、秋だし、冬も近いからね。寒いときは赤が売れるよ。熱の術を宿らせるにはもってこいだから、そりゃよく売れる」 「そうか。もう冬なんだよな」  言われて思い出したように、トリズは手をこすり合わせる。その間にも、セニーの手と口は止まらない。 「他の季節に比べて、大体三倍。ウチで素材だけ買って、保温や発火を他所の店で入れてもらったり、自分で入れてみたり」 「このサイズなら部屋の暖房で二か月、だったか」 「術の質にも依るけどね」  自分の顔をいくつもの面で映し出す青の結晶を光に透かして、トリズは思いを馳せる。見上げた壁付照明にもまた、壺型の外装の中で結晶が入っている。発光術を宿した正八面体は、今取り扱っているサイズよりも二回りは大きい。
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