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新人に後始末を任せ、店長は店の中央に歩み出る。すると、それを待っていたかのように店のドアが開かれた。開と閉のメロディは合間なくつながって、新たな客を迎え入れる。セニーは笑顔で歓迎し、木箱を抱えようと屈むトリズも遅れて、声だけで挨拶する。
「久しぶり、セニーちゃん」
「あぁクルトンさん、よそにご贔屓作っちゃったかと」
ともすれば嫌味とも取られかねない軽口も、お互いに笑って交わす。トリズから見れば初めての客だが、コートを着込んだ夫人は常連らしい。セニーは自然な調子で世間話をしている。店員のエプロンさえ着ていなければ、親子にも見えるし、友人にも見える。店長と呼ぶには見た目こそまだ若いが、商品の知識と自信、そして接客の余裕は、経験と商売への適性を感じさせる。
(それとも、ただお気楽なだけか)
二人の邪魔にならないように、トリズは売り場を大回りする。材料コーナーから道具類、古着、子供向けコーナーを順に縫っていく。結晶と商品を傷つけないことは勿論、客がいる今は音をたてぬよう殊更注意しつつ、慎重に倉庫に戻る。その間にも、二人の話は弾んでいる。
「そういえば、彼は新人さん?見ない顔ね」
「トリズですか。行くところがないって言うんで」
大きな窓といくつかの照明で明るい店内は、秋風の吹く冷たい外界を思わせないが、如何せん三人しかいない。コーナーをいくつ挟んだところで会話はよく聞こえる。
「あらま大変だったわね。どこで拾ってきたの?」
「いやいや、捨て犬じゃないんですから」
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