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1:探し者
暖かみある木製のドアが開かれて、くすんだ銀のベルが鳴る。メロディは軽快に響き、石畳と秋空に吸い込まれていく。道より明るい色調の煉瓦造りの商店が並ぶ道を行くのは、幼い少女とその母。送り出すのは穏やかな顔つきの青年だ。
「またよろしくねぇ」
ドアを押さえて別れの挨拶をする青年に、少女が立ち止まり手を振り返す。掲げる右手には購入物の入った手提げ袋を握っている。路面列車の線路も荷車の影もない街路では、最悪でも買ったものを落とす程度とはいえ、母は慌て、青年は苦笑する。そんな心配もつゆ知らず、少女は家路を駆けていく。道路の脇に寄せられた枯れ葉が、少女の起こした風で少しだけ舞いあがった。
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