第六章 封鎖された学園

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 誰も何も言わなかった。茶化すのを生き甲斐にしている女子の金本も黙っていた。  智也が奥歯を噛みしめる。国民の義務? 教師を粛清せよ? 僕たちに但馬先生を殺せとでも言うのか?  教壇の上にいる偽警官を演じた少年(そう、今や明らかに〝少年〟に見えた。実際は十八、九歳なのだろう)が生徒の顔を見渡す。 「今、議長から通告があった通りです。一刻も早く、この教室にいる二十歳以上の大人を粛清してください。〝排除〟が遅れると、クラス全体が連帯責任を負わされます」  まるで早く教室の大掃除を終わらせようとでも言うような口調。もう警官を装うことはやめたらしい。涼やかな整った顔立ちが、逆に不気味だった。  生徒たちの目が、教壇のそばにいる三十代半ばの男性教師に向けられる。但馬先生がたじろぎ、自分以外の誰かを探すように目を左右に泳がせる。  だが、この教室に大人は先生だけだ。三度も留年した生徒はいない。
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