第六章 封鎖された学園

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 彼女は、昨年の学校立てこもり事件で人質になった瀬戸茜の母親だった。  あの事件で瀬戸茜は世間の好奇の対象となった。ネットに中学の卒アル写真をアップされ、自宅住所を書き込まれた。  マスコミの取材攻勢に加え、家にもイタズラ目的の訪問が絶えなかった。玄関の表札も、前に来たときはガムテープで覆われていた。 「あの……お父さまは?」  拓巳が遠慮がちに訊ねる。廊下は薄暗い。玄関に靴もなく、家に人の気配が感じられなかった。 「今はちょっと外に出ておりまして……」  それで車がないのだろう。何か切迫した事情でも抱えているのか、母親の顔が強張っている。警察に届け出るとはどういう意味だろう?
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