第六章 封鎖された学園

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 母親が向かったのは一階のリビングではなかった。二階へ続く狭い階段を上っていく。 「前に新堂さんがお見えになられたときにお伝えしたと思うのですが、茜はあの事件以来、部屋からほとんど出ようとしなくて――」  世間の目を逃れるように、窓とカーテンを閉め切った部屋に引きこもった。もっとも学校に行こうにも、校舎が破壊され、休校になっていた。だが年が明け、プレハブの仮校舎が建てられた後も登校しようとしなかった。  事件の報道が落ち着いた頃から、拓巳は両親に手紙を送りはじめた。本人よりも両親を説得する重要性を、この少年はよくわかっていた。  自分が三年前の城岩中学爆破事件の生存者であること、腕をなくしたこと。自分なら瀬戸茜の気持ちを理解できる、といった内容を手紙につづり、徐々に両親の信頼を得ていった。  追い返されることを承知で、アポなしで直接自宅を訊ねたこともあった。だが、瀬戸茜と会うことは叶わなかった。両親は前向きになっていたが、本人に拒否されたのだ。
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