色のない虹

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 夏、暑い夜には窓を開け放して眠るのが一番手っ取り早い方法である。扇風機をつければ音が煩いし、団扇で我慢できるほど大陸の気候は優しくない。かといって蚊帳もなしに窓を開けては虫には入られる。  広い寝室に、一人には大きすぎるキングダブルのベッド。床に敷かれた東方物の紅い刺繍の絨毯。重厚そのものの部屋にはそれに相応しくじっとりと重苦しい空気が垂れ込めていた。  クライスベルトは何度か寝返りをうって涼しい箇所を探してはゴロゴロと転がり回ったが、ついに我慢が出来ず、むっとベッドから起き上がると窓を開けて風を入れた。  少し汗ばんだ寝間着に風があたってひんやりと涼しい。 「お坊ちゃん。どうされたのですか?」  部屋の外から執事のサウフが呼んだ。窓を開けたときの音で気付いたらしい。 「いや、何でもないよ。少し涼みたくてね」 「さようでございましたか。くれぐれも虫などにはお気を付けてください」 「ああ、留意しよう。おやすみサウフ」 「おやすみなさいませ、お坊ちゃん」  足音が遠ざかっていく。  サウフはクライスベルトが幼少の頃から面倒をみてもらっている執事である。ここ最近は邸の主であるクライスベルトの父の言い付けで、執拗なまでにクライスベルトを世話するようになった。世話という名で括ってはいるが、その実態は殆ど監視の域であった。逐一父に報告しているからである。  クライスベルトは思った。いっそのことこのままベランダから降りて庭でも散歩しようか、と。  クライスベルトはベランダの手摺に手を掛けると、それを跨いで屋根から地上に降りた。  本来ならサウフに叱られるところであるが、今夜だけはそれでも良いと思えた。  月明かりが独り歩くクライスベルトを蒼白く照らしている。裸足のままレンガで舗装された小道から芝生の植えられたバラ園へと入る。  つい2年前に増築されたバラ園は、隅々まで手入れがされていて小綺麗にまとまっていた。
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