1 心の拠り所との別れ

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 お母さんはほとんど外食。家でご飯を食べることは滅多にない。  いつも派手な服ばかり着ていて、高そうに見えるアクセサリーを身につけている。お財布もバッグもたくさん持っている。  たまに知らない男の人を家に連れてくる。きっと、キャバクラのお客さんだと思う。  その時、私たち三姉妹は子供部屋に避難する。  絶対に声は出さない。三人で一箇所に固まり、身を潜めるようにして、お母さんが連れてきた男の人が帰るのを待つ。  壁の薄いオンボロアパート。お母さんの部屋の声は筒抜け。変な声ばかり聞こえてくる。ギシギシとベッドの音も。  悪魔の声と音を聞かないように、私たち三姉妹は両手で耳を塞ぐ。  嵐が過ぎるのを待つように、ただただじっと堪える。    仕事が仕事だけに仕方ないとは思うけど、もう少し自制してほしいと思う。  そんなお母さんのお給料がいくらなのか、貯金はしているのか、私には全くわからない。聞いても何も教えてくれない。子供の教育には全く無関心。  私の名前は歩美なのに、名前で呼ばれたことはない。いつもいつも、あんたと呼ばれてしまう。  二人の妹も同じ。三姉妹の名前は、全員あんた。自分の子供だというのに。  どうして三人も作っちゃったんだろ。それがお母さんの口癖。私たち三姉妹の前で堂々と言っている。まるで、嫌味のように。
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