2 切なくも楽しい春の思い出

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 リスがいないか目を凝らしながら、人気の少ない静かな森の中を進んでいくと、絶好のお花見ポイントに着いた。  案の定、人は少ない。  家族連れの姿はちらほらと見受けられるけど。 「早くお弁当を食べようよ!」  私がレジャーシートを広げた途端に、香奈と蓮花が口を揃えて言う。まるで意思疎通ができているかのように。  時計を持っていないので、正確な時間はわからない。  樹々の間から見える太陽の角度からすると、まだ九時くらい。  お弁当を食べるには、いくらなんでも早すぎる。  今、食べてしまうと、お腹がペコペコの状態で帰り道を歩くことになってしまう。 「もう少し経ってからにしようか」 「もう少しって、どれくらい?」  香奈がすかさず私に尋ねる。 「お日様が真上に上がるまで」 「それじゃあ、いつもと同じ時間じゃん」  香奈が両手でお腹を押さえながら言う。 「そんなに待ったら、お腹がぺったんこになっちゃうよ」  蓮花も両手でお腹を押さえながらアピール。 「じゃあ、もう少し早く食べようか」  香奈と蓮花のアピールに耐え切れず、私は折れてしまった。 「うん!」  元気な声で返事をした香奈は、リュックサックを背中から降ろして、レジャーシートに座った。 「お腹がぺったんこにならないうちにね!」  嬉しそうな顔で言った蓮花も、レジャーシートに座った。  ようやく落ち着いたところで、お花見開始。
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