2 切なくも楽しい春の思い出

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 香奈が、あんまし美味しくない。と言っていたけど、自分で食べてみないことにはどんな味なのかわからない。  私も桜の花びらを食べてみようかな。  そう考えていた時、40歳くらいに見えるおばさんが、私たちの方に向かって歩いてきた。  私たちの近くでお花見をしているおばさん。家族で来ているお母さん。  オシャレなデザインの、紺色のサファリハットを被っている。 「こんにちは」  サファリハット姿のおばさんが、私たち三姉妹に挨拶してきた。 「こんにちは」 「こんにちは」 「こんにちは」  私たち三姉妹は、レジャーシートに座ったまま、私、香奈、蓮花の順で、サファリハット姿のおばさんに挨拶を返した。 「急にごめんなさいね。ちょっと心配になって、話し掛けてみたの」  サファリハット姿のおばさんが、私たちのことを心配してくれているのは、小さな子供だけでお花見をしているからだと思う。 「お父さんとお母さんは、どこにいるの?」  サファリハット姿のおばさんが、私に尋ねてきた。この三人の中で、いちばん年上に見えるからだと思う。 「お父さんはいません。お母さんは家にいます」  私が答えた瞬間、香奈と蓮花は悲しげな表情を浮かべて、無言のまま、下を向いてしまった。  ついさっきまでの元気が嘘だったかのように、すっかりと大人しくなってしまった。  香奈も蓮花も下を向いたまま、微動だにしない。  小さな子供だけでお花見をしているのは珍しいと思うけど、心配してくれているのは嬉しいけど、私たちに話し掛けないでほしかった。そっとしておいてほしかった。 「そうなの。お嬢ちゃんは何歳?」 「6歳です」 「6歳というと、これから小学校に入学するのかな?」  どうやら、お話好きのおばさんのよう。 「はい。入学する予定です」  私は、小学校に入学できることになった。  お母さんに話はつけてある。  昨年の秋のことだった。
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