2 切なくも楽しい春の思い出

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 私は勇気を出して、お母さんに話し掛けた。 「あの……」 「なに?」 「あの……」 「時間がもったいないでしょ。早く言いなさいよ」 「あの……小学校に行きたいんですが」 「行きたいなら、行けばいいでしょ」 「……はい。それで、入学の手続きをしていただけませんか?」 「自分でできないの?」 「……はい。保護者にしてもらわないといけないんです」 「そうなんだ。めんどくさいな」  お母さんだって、小学校に通ったんでしょ。  お父さんかお母さんが入学の手続きをしてくれたんでしょ。  めんどくさいな。なんて言わないでください。  そう心で思っていも、お母さんには言えない。  ここでお母さんの機嫌を損ねるわけにはいかない。 「入学の手続きをしていただけますか?」 「私もそこまで鬼じゃないわよ」 「ありがとうございます」  私はお母さんに向かって頭を下げた。 「それと、もう一つお願いがあるんです」 「なに?」 「給食費を払っていただけませんか?」 「いくらなの?」 「ひと月で、約4000円です」 「給食費って、そんなに高いんだ。タダにしろよ」  お母さんだって、給食を食べたんでしょ。  両親が給食費を払ってくれたんでしょ。  高いのはわかりますけど、どうか払ってください。  私は心の中で強くお願いした。 「払っていただけますか?」 「仕方ないわね」 「ありがとうございます」  私はお母さんに向かって深々と頭を下げた。 「三人で、月に1万2千円か。余計な出費だな」  まるで嫌味のように言ったお母さんは大きく溜め息をついた。 「申し訳ありません」  私は何度も何度もお母さんに向かって頭を下げた。  そんなに自分の子供が嫌いなんですか。  子供が嫌いなのに、どうして三人も作ったんですか。  自分でしたことなんですよ。  子供の面倒を見るのは、母親の義務なんですよ。  言いたくても言えない自分がいる。  でも、小学校に行けることになって良かった。
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