3 憧れのランドセルと無口な転校生

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 眺めるのはタダなので、いちばん値段の安い赤いランドセルをじっと見つめていたところ、私と同い年くらいに見える女の子と、30歳くらいに見える女性がランドセル売り場にやって来た。  私と同い年くらいに見える女の子は、白のひらひらスカートを履いている。丈は膝が少し見えるくらい。  その女の子のお母さんと思われる女性も、白のひらひらスカートを履いている。丈は足首が見えるくらいの長さ。  なんとなく、デザインが似ているように見える。  あの二人はきっと親子。  仲良さげに手を繋ぎながら、高価なランドセルを見て回っている。  私は羨ましく思いながら、笑顔でランドセル選びをしている親子の様子を見つめた。 「このランドセルはどう?」  お母さんの声は明るく聞こえる。 「んんー、こっちのランドセルのほうがいい」  女の子の声も明るく聞こえる。 「じゃあ、そのランドセルにしましょうか」 「うん!」  女の子が選んだのは、58000円もする赤色のランドセル。この売り場でいちばん高いランドセル。    いいな。いいな。いいな。すごく羨ましいな。  私は女の子の笑顔を見つめながら、心の中で何度もつぶやく。   「店員さん、すみません」 「はい。お決まりですか」 「このランドセルをください」 「はい。こちらのランドセルですね」  女の子のお母さんは、高そうなお財布からお札を取り出して、58000円もするランドセルの料金を一括で支払った。    すごい。すごい。すごい。すごいお金持ち。  私は大きく口を開けながら、心の中で何度もつぶやく。
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