1 心の拠り所との別れ

5/23
68人が本棚に入れています
本棚に追加
/1223ページ
 炒めた麺に粉末ソースを混ぜて出来上がり。  自分の分と二人の妹の分をプラスチックのお皿に盛り付ける。  麺だけの焼きそば。具は何も入れていない。飲み物は、お水だけ。  どんなにお腹が空いていても、お昼ご飯は必ず十二時を過ぎてから食べる。なぜなら、暗黙の決まり事になっているから。  私の二歳下の妹の香奈は、いつも子供部屋で絵本を読んでいる。たった二冊しかない絵本を。私が声を掛けると、嬉しそうな顔で勢いよく走ってくる。  三歳下の妹の蓮花は、いつも11時半頃から席についている。右手でプラスチックフォークを握り締めながら。  姉妹三人でテーブルを囲み、私と香奈は使い古したお箸を握り締める。  お母さんのことは嫌いだけど、香奈と蓮花のことは好き。私の可愛い妹たち。  決して口に出して言わないけど、香奈と蓮花もお母さんのことを嫌っていると思う。怖がっているとも思う。  私が香奈と蓮花の母親代わり。  二人とも、私の言うことを素直に聞いてくれる。 「いただきます」  小さな声で食前の挨拶をして、三姉妹で一斉に食べ始める。  私は必ずゆっくり食べるようにしている。なぜなら、ゆっくり食べたほうがお腹に溜まるから。それまでの経験で培った知識。  晩ご飯は、7時。毎日必ず同じ時間に食べる。それまで、お水以外は何も口にしない。  香奈と蓮花もゆっくり食べている。私がゆっくり食べなさいと言った日から。
/1223ページ

最初のコメントを投稿しよう!