冷たい雨と懐中電灯

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私はシンデレラ。いつか必ず、王子様が迎えに来てくれる。 高校二年生にもなって、そんなことを本気で信じている彼女を、どうか笑ってやってくれ。 名前は、小原塔子という。 カーテンの隙間から差し込む朝日。 目を覚ました彼女が真っ先にすることは、顔を洗うことでも、スマホの着信を確認することでもない。 カーテンを開けて、窓から見える街並みに「おはようっ」と声を掛けることだった。 そう。彼女はちょっとイタい。 歯を磨き、髪を梳き、制服に袖を通す。 メガネをかけて鏡を覗くと、ギョロ目で頬がプックリと膨れた顔が映る。 ただ後ろに結わえただけの、ゴワゴワの髪。 今日もやっぱり可愛くない。 彼女は、自分の眼差しからすぐに目を逸らす。 朝食代わりの牛乳を飲んで、家を出た。 バス停での待ち時間は、SNSのグループチャットに費やす。 今朝も、クラスメイトたちの挨拶が連なっている。 『おはよう』『おは』『グッドモーニング!』『チエ、一緒に学校行こう』『寝坊! 遅刻する!』 短いつぶやきに、みんなの顔を重ねる。
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