冷たい雨と懐中電灯

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風が吹いていた。雨が降っていた。 外だ。私は外に出られたんだ。 ずぶ濡れになることも構わず、塔子は懸命に前庭を駆け抜けた。 伸び放題の植え込みを横切り、剪定されてない蔦の絡まる木々を振り払い、走った。 「あれ、あの女性は?」 一瞬だけ振り向いて、懐中電灯を向ける。 洋館の重い扉の隙間で、手を振っていた。 私を助けてくれたあの人が、笑顔でサヨナラを告げていた。  ※ ※ ※ ※ ※
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