懐中電灯と弔いのチョコレート

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クシャミをするのは、誰かに噂されているとき。 クシャミ一回は、褒められているとき。二回は、憎まれているとき。三回は、惚れられたとき。 では、十二回の場合は? 小原塔子は、十二回立て続けにクシャミを放った。混雑する、早朝のバスの中で。 ハンカチで口元を押えていたものの、隣の中年サラリーマンに嫌な顔をされる。 昨日までの塔子なら、申し訳なさそうにひきつった笑顔を返すのだが、今朝の塔子は違った。 キリリとした目線で、にらみ返す。クシャミして、何が悪い。 バツの悪くなったサラリーマンの方が、視線を反らした。 きっとこれは、風邪だ。 昨夜、あれだけ雨に打たれれば、そりゃあ体調も崩すだろう。 何となく、頭も熱を帯びているように感じる。 でも学校を休む気はない。 私は、眠れる森の美女じゃない。針に刺されたくらいで眠っていられない。 風邪くらいで学校を休んでいられない。 王子様なんて、絶対に現れないのだから。 昨夜起こった出来事が、いまだに信じられない。
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