懐中電灯と弔いのチョコレート

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自分の身に何が降りかかったのかも、よくわからない。 だけど、今朝の芸能ニュースが、ひとつの事実を伝えてくれた。 モデルで歌手の伊藤さなえが、現在行方不明だという。 すでに二週間、家族とも事務所とも連絡が取れていないらしい。 テレビに映し出された顔写真を見て、塔子は飲んでいた牛乳を噴き出しそうになった。 その綺麗な顔立ちは、あの処刑場ホテルからの脱出を先導してくれた女性に瓜二つだったのだ。 伊藤さなえが、私を助けてくれた。 そしてニュースは、人気モデルの最大の特徴を伝えた。 胸元に彫られた、バラのタトゥー。 水着姿で微笑む彼女の写真には、見たことのあるタトゥーがあった。 そう。あの厨房に横たわっていた、首なし死体。今度は、きちんと牛乳を噴き出した。 「私は、何を見たの?」 交通事故死した、血だらけの少年。 首を切断された、モデルの伊藤さなえ。 霊的な体験など、この十六年間、一度もしたことがなかったのに。 「もしかして・・・」 塔子が二人を見たときは、必ず懐中電灯が灯っていた。 古びた懐中電灯は、死者を照らし出すのかもしれない。 「馬鹿馬鹿しい」 塔子の想像は、クシャミで遮られた。今度は、十三回連続。新記録だ。  ※ ※ ※ ※ ※
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