懐中電灯と弔いのチョコレート

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大城正美が力任せに扉を開けようとするが、すでにハードルのつっかえ棒がしてある。簡単には開きはしない。 白川千絵が、照明のスイッチを押す。だけど、明かりは点かない。蛍光灯を外しておいたから。 「おい、出せよ。ここから、出せよ!」 「誰か、誰か開けて!」 「ちょ、ケータイで和也たち呼ぶわ」 三人は、真っ暗闇でちょっとしたパニック状態。でも、本当の恐慌はこれからだ。 塔子は、懐中電灯を点けた。 天井の梁めがけて、頼りないぼんやりとした光で照らした。 「あれ、明かり? 何、これ?」 三人が、照らされた先を見つめる。 さっきまで何もなかった場所に、人の姿が映し出されていた。 天井の梁にぶら下がる、ひとりの男子生徒。 充血した目を飛び出させ、鼻水を垂らし、開いた口から舌を出してよだれが滴っている。 喉元に食い込んでいるネクタイ。 異様に長く伸びた首。 制服のズボンは、漏れだした糞尿で濡れていた。 それは、四年前、大学受験に失敗して首をくくった男子生徒だった。 塔子の持つ古びた懐中電灯が照らし出した、死者の姿。
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