懐中電灯と弔いのチョコレート

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その場所を特定するのは簡単だった。 昨夜歩いてきた道を、憶えている限り地図上でさかのぼってみる。 そしてそこから最も近い場所にある、広大な敷地の洋館を探せばいい。 塔子の指先は、山の中腹の一点で止まる。 「あった・・・」 下校途中、いつものバスには乗らず、反対方向のバス停に向かった。 二台のバスを乗り継ぎ、坂の途中で降りた。 少し歩くと、道路脇にジュースとお菓子の供えらえた献花が目に止まった。 塔子は合掌し、弔いのチョコレートを置いて立ち去った。 剪定のされていない木々を手で払い、伸び放題の植え込みを横切る。 目の前にあるのは、大きな洋館。 忌まわしい、処刑場ホテル。 ホテルの中に入る必要はなかった。大きな扉の前で、男が何やら作業している。 整った顔立ちの、猟奇殺人カメラマン。名前は・・・何だったっけ? 男が塔子の姿を見つけて、作業の手を止めた。 声を掛けたのは、彼女の方からだった。 「何をしているの?」
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