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翌朝、塔子が登校すると、生徒玄関前で野村かほりが足止めを食らっていた。
生活指導の教師が口角泡を飛ばしている、「校内では帽子を脱ぎなさい」と。
彼女はうつむきながら、深くかぶっていたニット帽を取った。
トレードマークの髪は、バッサリと切られていた。いや、切るしかなかったのだ。
ベリーショート? いや、違う。ほぼ丸刈り。
読者モデルのオーラは、髪とともに消えていた。
塔子は、その横を無言で通り過ぎる。
下駄箱の中の上履きは、キッチンバサミで切り刻まれていた。
これじゃあ、履けない。購買に行かなくちゃ。一足、千八十円。痛い出費だ。
教室に入ると、いつものようにクラスメイトたちの談笑が止んだ。
でも、その後に続いたのは、あざけりのヒソヒソ声ではなく、息を飲む音だった。
塔子は背中までのゴワゴワの髪を、アゴのラインまで短くしていた。
前髪は、眉の上でパッツンと切り揃えてある。
野村かほりに切られた髪を隠すため、塔子は昨日、美容室に行ってきたのだ。
いつもは入ったことのない、とびきりオシャレなヘアサロンに飛び込んでみた。
初めてで要領のわからない彼女がオドオドしていると、美容師が「どんな髪型にしますか?」と尋ねてきた。
「ああ、えっと・・・」
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