電気ポットと水色の上履き

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机の上に広げていた教科書が、ぞんざいに払いのけられる。 代わりにその場に置かれたのは、太くて筋張った二本の腕。ドンっと机を叩かれて、小原塔子は身をすくめた。 「てめぇ、千絵に何しやがった!」 いきなり怒声を浴びせられ、彼女は押し黙る。 目の前で怒り心頭に発しているのは、八代和也。体重百キロを超える、クラス一の巨漢。 ラグビー部のフロントローを務める、ゴリラ。 白川千絵と付き合っていることは、本人たちだけが隠し通せていると思っている、公然の秘密。 「あのとき第二倉庫にいたんだろ! 千絵に何をした! 言え!」 太い腕が胸ぐらをつかんできた。捻りあげられ、制服のリボンがちぎれる。 塔子は圧倒的な腕力の前に、うつむくことしかできなかった。 八代和也ひとりだけでも厄介なのに、その横には必ずこの男子生徒がいる。 「早くしゃべっちまえよ。そっちの方が、お前のためだぞ」 身長百九十センチ、類まれなる身体能力で、二年生ながらバスケットボール部のセンターを担う、荻野亮一。 女子人気の高い切れ長の目を持つ、塩顔男子。 見た目のさわやかさとは裏腹の、陰険でしつこい、ヘビ。
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