電気ポットと水色の上履き

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「あんたなんかに、殺されるもんですか!」 塔子は、ブレザーのポケットの中に手を入れる。そこに入っているのはキッチンバサミ。 殺人鬼がおもむろに手を伸ばしてきた。 あまりにも早い動きに、塔子は逃げることもハサミを取り出すこともできなかった。殺される! だが、殺人鬼の手は、塔子の横を素通りし、棚に置かれている電気ポットをつかんだ。 そして、温まり始めたお湯を、床にぶちまけた。 熱いしぶきが、彼女の靴を濡らした。 「お前、お湯を沸かしたな?」 その直後から、あれほどいきり立っていた感情が急激にしぼんでいくのを感じた。 あれ、私、何であんなに腹を立てていたのだろう? 「この電気ポットはな、怒りの感情を高ぶらせるんだ。お湯が熱くなればなるほど、その周囲にいる人は怒りを覚える。危うく俺も、冷静さを失うところだったよ」 お湯の温度とともに、怒りを誘う電気ポット。 なんて、ホットな道具なのだろう!  塔子は、殺人鬼に尋ねる。 「もし、お湯が沸騰したら、周りの人たちはどうなるの?」 殺人鬼は眉根を寄せた。 「そんなに、血みどろの殺し合いが見たいのか?」  ※ ※ ※ ※ ※
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