電気ポットと水色の上履き

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「痛いなぁ。この、デブ! だいたい、あんなアバズレのどこが好きなんだ?」 パチンとしなる音。ヘビが蹴ったのか。 「何だと! 千絵はそんなんじゃねぇ!」 ドン、ドン、ドン。三連打。ポットから、湯気が立ちのぼる。 「アバズレは、アバズレだ! お前以外の何人とヤってるか、教えてやろうか?」 ゴツン。頭突き? 痛そうな音。 ポットの中では大きな泡が立ち始めた。もうそろそろ、沸騰する。 「てめぇなんか、ハチとでもヤってろ。あのブサイクがお似合いだ!」 何でここで、私が出てくるの? 塔子は奥歯を噛みしめる。 扉の向こうでは、壮絶な殴り合いが始まっていた。血が混じった唾を吐く音も聞こえる。 「あんなブサイクとヤるなら、死んだ方がマシだ!」 はあ、どういうこと! 誰がこの清らかな身体を、お前たちクズどもにくれてやるか!  もう決めた! ポットのお湯を沸騰させてやる!  お前ら二人は、ここで血みどろの殺し合いをして、死ね! 怒りを抑えきれず、塔子は個室のドアを蹴り上げてしまった。 そう。電気ポットの効果は、周囲にいる者に平等に訪れるのだ。怒りの、誘発。
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