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月が照らす
ひと気のない夜の公園で
ひらり、ひらり
舞い散る薄桃色の花びらがひとひら
男の掌に
ふわっと収まった。
葉月は思わず息を飲んだ。
桜が降る中に立った男は、瞬きした瞬間に消えてしまいそうに儚げで、このまま夜に溶け込んでしまいそうに不気味で、
そして美しかった。
「ほら、ね?」
男は葉月の方に向き直り、柔らかく笑った。
そして掌の花びらを指で摘んだかと思うと、パッと離してしまった。
小さな花びらは風に乗って、またひらりひらり飛んでいく。
「せっかく掴んだのに…」
「持ってたってしょうがないじゃん」
男はまた笑ったが、葉月にはどうにも勿体無く感じられた。
「でも知ってる?桜の花びらを…」
もしかしたらこの子はあのジンクスを知らないのかもしれない、と思った。
しかし男は葉月の言葉に被せるようにして口を開く。
「3枚掴むと、願いが叶うんでしょ?」
その声が、表情が、葉月の頭の中で彼とリンクした。
軽く頭を振り、思い出を振り払う。
そして無理やり笑顔を作った。
「そう。知ってたのね?」
「もちろん」
「じゃあなんで捨てちゃうの?」
「だから、持ってたってしょうがないからだよ」
会話が上滑りしているような感覚を残したまま、しばしの沈黙が訪れる。
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