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少し気まずさを感じ始めた頃、「あのさ」と男がまた口を開いた。
葉月はほっとするのと同時に、どうして全く知らない初対面の人にこんなに神経を使っているのか、と自分の不器用さにうんざりした。
「君は何か叶えたいの?」
「え?」
「掴もうとしてたでしょ、花びら」
男の目は葉月ではなく、舞い散る花びらを追っていた。
葉月は男の問いに、先ほどの自分の行動を思い返しながらぽつりと答える。
「ああ、そうかもしれないわね。願いを叶えようとしてたのかも」
「どんな願いなの?」
「ふふ、わからないわ。もう自分がどうしたいのか」
気がつくと葉月は、初対面で、年齢も素性も、名前すらわからない男に、自分の身の上話をしていた。
結婚を約束していた男性がいたこと。
彼といると本当に幸せだったこと。
その彼が、友人と浮気をしていたこと。
もう何もかも投げ出して死ぬつもりだったこと。
けれど気がつくと彼との思い出が詰まったこの公園に来てしまったこと。
いつの間にか涙が溢れ止まらなくなっていた。
嗚咽で言葉が途切れ聞きづらかっただろう。
それでも何も言わずに背中をさする男の手は温かく、葉月は男が現実に存在しているのだとぼんやり思った。
「私、幸せになりたい…」
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