ひらり、ひらり

4/5
前へ
/5ページ
次へ
涙と一緒にぽろりと零したそれは、ようやく出た葉月の願いだった。 全て吐き出して残った最後のひとつは、ずっと葉月の根底眠っていたものだった。 男は何かを言いかけ、口を噤む。 そして舞い散る花びらに向かって、おもむろに手を伸ばした。 行動の意図がわからず戸惑う葉月に、男は「俺ね」と口を開く。 「俺ね、好きな人がいたんだ。 出会いはこの公園。 そのとき俺まだ高校生のガキでさ、その人はたぶん大学生だったのかな」 男の掌に花びらがひとひら受け止められる。 1枚目 「その人は桜が満開のこの公園で本を読んでた。 その姿があまりにも綺麗で…一目惚れだった。 俺、どうしても話しかけたくて、会話の糸口を探して、その人がいつも読んでる本と同じ本を持って公園に行ったんだ。 俺もその本好きです!ってさ」 今思ったら気持ち悪いよな、と自嘲気味に笑いながら男はまた手を伸ばす。 2枚目 「でもその人は嬉しそうに笑うんだ。 俺の差し出した本見て、本当だ!って。 嬉しかったなあ。 その時にさ、俺の本の上に、ひとひら桜の花びらが乗ったの。 でさ、それ見てまた嬉しそうに笑うんだよ、その人。 ラッキーだね!って。 桜の花びらを3枚掴むと願いが叶うんだよ!あと2枚集めて何かお願いしてみたら?って。     
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加