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涙と一緒にぽろりと零したそれは、ようやく出た葉月の願いだった。
全て吐き出して残った最後のひとつは、ずっと葉月の根底眠っていたものだった。
男は何かを言いかけ、口を噤む。
そして舞い散る花びらに向かって、おもむろに手を伸ばした。
行動の意図がわからず戸惑う葉月に、男は「俺ね」と口を開く。
「俺ね、好きな人がいたんだ。
出会いはこの公園。
そのとき俺まだ高校生のガキでさ、その人はたぶん大学生だったのかな」
男の掌に花びらがひとひら受け止められる。
1枚目
「その人は桜が満開のこの公園で本を読んでた。
その姿があまりにも綺麗で…一目惚れだった。
俺、どうしても話しかけたくて、会話の糸口を探して、その人がいつも読んでる本と同じ本を持って公園に行ったんだ。
俺もその本好きです!ってさ」
今思ったら気持ち悪いよな、と自嘲気味に笑いながら男はまた手を伸ばす。
2枚目
「でもその人は嬉しそうに笑うんだ。
俺の差し出した本見て、本当だ!って。
嬉しかったなあ。
その時にさ、俺の本の上に、ひとひら桜の花びらが乗ったの。
でさ、それ見てまた嬉しそうに笑うんだよ、その人。
ラッキーだね!って。
桜の花びらを3枚掴むと願いが叶うんだよ!あと2枚集めて何かお願いしてみたら?って。
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