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新たな任地の郵便局から投函される筈であった叔父からの年賀状は形見となってしまい、遺品として生家に送る筈であったものを師団長の
「せめて年賀状だけでも、本人がしたかったようにするべき」
…という配慮に拠り、敢えて遺品ではなく普通の郵便物として扱ったという。
師団長からの手紙には
『(前文略)
西田中佐の遺言であります。
油断大敵とはまさにこのこと。
陸ちゃんの言うことをきちんと聞いておけば良かったと、ベッドの上で苦笑しています。
ですが、敢えて叔父は自慢の甥に言います。
決して支那の人々全てを憎まないで下さい。
日本側の都合がどうであれ、彼等には彼等の立場と暮らしそして都合があります。
思い出してみて下さい。
郷四郎兄さんが人質に取られてしまった時、陸ちゃんがどのように考えてどのように行動したのかを。
どうか支那のすべてを恨むことなく、皇軍といえども決して完全無欠ではないという教訓にして下されば幸いです。
一緒に玉電に乗りに行く約束がまた延びる事になってしまいすみません。
帰国したら、叔父は阪急のカツレツ定食でもカツカレーでも喜んで自慢の甥に奢ります。
それでどうか、嘘つきで至らぬ叔父の勝手を許してやって下さい。
自慢の甥へ。
叔父より』
…と記されていた。
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