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しかし陸攻は、多村機付長の言葉を額面通りに、否、額面以上に受け取ってしまったのである。
陸攻ときたら酒保の下士官に掛け合って、光1ダースと引き換えに大福のみならず羊羮と乾麺棒まで仕入れて来たのだ。
生半可な正規など歯牙にもかけない機付長も、これでは開いた口が塞がらない上に兜を脱ぐより他はない。
「機付長…」
「言うな勝(かつ)。
俺の負けだ。
こちとらアゴを覚悟してたってのによぉ全く…」
右腕である勝俣(かつまた)3整曹にそう言って苦笑すると、多村機付長は最寄のマーク持ちに命じ、自分が駆け出し整備員時代から愛用している虎の巻を持って来させる。
技術は教わるのではなく盗むのがまだまだ主流であった当時、これは滅多に見られない現象だと言えた。
そして、多村機付長は陸攻にこう言ってのける。
「幾ら士官でも、整備と名が付く行為をする以上物事の順序を守って頂けないと困ります。
これを何日か貸して差し上げますから、今日の所はお引き取り下さい。
先ずは予習ですよ大上中尉」
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