一 正しい予感

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 夏休みの宿題に自由研究があるのは事実だった。研究だなんて。中学二年にもなって、大げさでコドモっぽい宿題だ。テーマはなんでもよいという。各自が自由に好きなテーマについて創意工夫して研究すること、ひとりひとり個性を出すこと??、つまり先生たちだって手抜きなのだ。まあ夏だから仕方ないよなと思う。先生たちにだって休みは必要だろう。  でもそれなら僕だって、好き勝手やってやろうと思った。たとえば、叔父さんを研究対象にするとか。 「ゆっくり死ぬの?」 「たぶんね。生きると死ぬってきっとグラデーションで、境目はぼやけてる」 「そうかな」  ちがうと思う。今にも死にそうなことと完全な死には大きな隔たりがあって、その境界は厳格だと僕は考える。巨大な崖から落ちたらそれっきり、帰ってこられない。だからいのちの有無についてカンがはたらくし、そうでなくてはこの世もあの世も曖昧になってしまう。それって気持ち悪い。そう思う。 「青葉、セミの寿命はどれくらいか知ってるか」  青葉というのは僕のことだ。青柳青葉。ばかみたいな名前だと思うけど(死んだ父さんが命名)、十三年のつきあいなので慣れている。叔父さんの下の名前は恵という。めぐむ。ふつうの名前だ。母さんやおばあちゃんはめぐちゃんと呼ぶ。 「一週間でしょ」  僕が答えると、叔父さんはへえ、と感心した。ばかにしている。そんなのショーガクセーだって知っているし、僕に関していえば幼稚園の頃から知っている! 「土の中で七年過ごして、一週間やかましくさわぐ。ねえ、叔父さん、そんなのはコドモだって知ってるよ」 「コドモ!」  叔父さんは大げさに笑った。何がおかしいんだろう? 「うん、まあいいよ。青葉はもう大人だもんな。さっき大人になったもんな」  きょう僕は、ある部分において決定的な分水嶺をこえた。ぐるぐるまわるドーナツの輪の中で、そうなるとは思わなかった。叔父さんのアパートはドーナツの輪の内側にある。 「ちょっとこっち来てよ」  叔父さんは寝転がったまま手招きした。 「何」  となりに座ると、叔父さんはのそのそと僕の腰に抱きついた。長い腕はうっすら血管が浮いて白い。 「叔父さん、暑い」 「おれだって暑いよ」
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