一 正しい予感

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 みやかんと呼ばれる宇都宮環状道路が市の中心部をぐるりと囲んでいて、その内と外で景色はだいぶ変わる。外側は田んぼや畑が多くていかにも田舎の風景だけど、ファミリー向けの住宅地が新しく増えているそうだ(たとえば戸祭という地区は「宇都宮のビバリーヒルズ」だと叔父さんは言う)。いっぽう叔父さんのアパートのあるみやかんの内側は駅もデパートもある。でも全体的に古びていて住んでいるのもお年寄りが多い。ドーナツ化現象だと叔父さんが教えてくれた。  僕の夏休みはおもにドーナツの内側でおこなわれる。独身でいつもぶらぶらしている叔父さんと遊ぶのは気楽でいい。 「いまどきケータイ没収だなんて、お前の学校は厳しいんだな」  同じ班の山井がスマホを駆使して英単語テストのカンニングをしたため、班のメンバー全員がケータイを没収された。班ごとにテストの点数を競わされているためで、つまり連帯責任だという。担任は「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」と唱えた。拡大解釈にもほどがある、三銃士のダルタニアンはそういう意味で言ったんじゃない。はっきりいって、すげえむかつく。 「うん。つまり恐怖政治なんだよ」 「それなら青葉たち民衆は抗議の声を上げるべきだ。だいたい、夏休みのあいだじゅうずっと取り上げるなんて保護者からクレームくるだろ」  母さんは毎日働いているから、帰りの時間や夕食のことなどいつもケータイで連絡を取り合っている。僕のスマホが没収されてしまって母さんはものすごく苛立った。チホーコームインの野郎いつかぶっとばす、と怒り狂った。でも毎日働いているから保護者会みたいなものにはあまり来られない。それにたぶん、機嫌が悪いのはこのあいだ僕がモリモトさんとの食事会をすっぽかしたことも大きいので、僕としては君子危うきに近寄らず。 「きたみたいだけど、うちの担任は頭オカシイから知らんぷりだった」  叔父さんは笑った。 「先生っていくつくらいの人?」 「さあ。四十代だと思う」 「ふうん。ま、年取ると身体だってアタマだって、どこかしらガタつくよな。おれもだけど」  そうして叔父さんは息をこぼすみたいに笑うから、けほん、と咳みたいな音がした。抱きつかれたままだったので僕のTシャツはなまぬるく振動し、いろいろのことが思い起こされて脇の下にじわっと汗がわいた。 「……おれはセミの逆なんだ」
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