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「これは……」
机の場所は窓際の、自分の席がある付近。
足下に落ちていたそれは禍々しいフレーズが書かれている、紗雪がくれたパンだった。
自分のクラスだからあるのは当然だが、そういえば昨日、机の中に入れたままだったのをすっかり忘れていた。
『お前は少し落ち着け』
『むぐ?!』
紗雪がくれたパンを見て、昨日の何気ないひと時を思い出す。
『珠音ー!』
あいつの声が聞こえた気がした。
そしていつの間にか、錯覚かもしれないが、ほんの少しだけ、気持ちが和らいだ気がした。
今ここで俺が失敗すると、俺だけじゃない。紗雪や商店街を歩いていた人達も、みんな命の危機に瀕することになる。
それだけは絶対にダメだ。
俺は、足下に置いてあるパンを拾い、破いて一口だけ、大口で齧った。
「うわ。やっぱりめっちゃマズイ」
パンに加工してあるからか、開けた時の匂いは思ったほどでもなかったが、齧って見ると嫌な香りが鼻腔をつき抜ける。甘さは控えめだからタチが悪い。こんなのを一体どこで買ってくるんだ。
だが、今まで考えていたことは全て吹き飛んだ。
……いつもは俺が宥める役なのに、初めて立場が逆転したな。
そうだ。1度頭を空っぽにしろ、そして今までのことを思い出せ。
これだけ探しても何もないんだ。だったら何かの見落としが、どこかにとっかかりがあるはずだ。
まずはそれを考えろ。
黒板を見ると、時間は残り1分10秒。なぜかはわからないが、そんなに時間はたっていない。
なら、やることはもう決まった。
そう思い俺はパンを机に置き、自分の倒れていた椅子を立て直し、そこに深く腰掛け、その場で目を瞑った。
「へ!?何してんの!?諦めたの!?」
死神の声が聞こえてくるが、俺は意に介さなかった。
……今の俺にできること。
ーーーーーー1分間時間を使って、考えろ。
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