35人が本棚に入れています
本棚に追加
楓の返答に加えて正体不明の声も返答してくれた。猫の耳がピコピコ動く。聞こえるはずのない猫の声が聞こえているとしか思えない。心臓がどきどきする。胸がわくわくではなく不安で動悸がしていた。猫を妹から引き離すべきだろうか。葵の指先がピクリと動く。楓は葵の様子に首を傾げてから少し意地悪げに笑った。
「もしかして闇の声が復活しちゃった?」
葵はひゅっと息をのんだ。蘇る数年前の記憶。少しばかり想像力がたくましかった頃の話。
「やめろよ……」
「えっ、ごめん。お兄ちゃん元気ないね。どしたの」
普段なら過去の恥ずかしい思い出を苦笑いで誤魔化す兄がいつもと違う反応をしてきたことに楓は戸惑い、葵は慌てて何でもないと返すのが精一杯だった。
現在、高校三年生である葵は中学時代に聞こえもしない声を聞こえると言っていた時期がある。確かに聞こえたような気がしていたが、今思えば何も聞こえていなかった。あんなことを言っていたから、こんなことになってしまったのか。耳が変なのか。それとも、猫が。
「さっきから何見てんだ、やっぱ喧嘩売ってんのか?」
餌皿の横に座る座る猫が葵を見ている。顔を逸らした。あきらかに挙動不審だ。
最初のコメントを投稿しよう!